電光石火


走る走る走る走る。

全力でひたすら走る。


(なんで全力疾走しなきゃなんねーんだ?)


冷静になろうとする脳を、オーバヒートさせるためだろうか。

そう、これから行われる任務は、
頭に血が上るほどの勢いでしか遂行できない。


(つーか、耐えらんねえな)


目的地まで残り数100メートル。
右ポケットを触って、中にあるものを確認した。


走る走る走る。

残り100メートル。
ポケットに右手を突っ込んで、中のものを取り出す。
過ぎ去る景色について行けず、危うく取り落としそうになった。

失速したら最後、何もかも終わりだ。


残り、30メートルを切る。
まだ疾走。


包み紙を破って、そのまま風に散らす。
横目で一瞬だけ追った。


残り、0メートル。


目的地である家のドアに激突する寸でのところで停止。
急に心臓が波打って、体中が発熱する。汗が噴き出した。

息が止まっていることに気づいたけれど無視した。


チャイムを鳴らす。

手に汗が滲んでいた。


ドアが開く瞬間、手の中のものを自分の口に放る。


「、」


出迎える相手が声を発する前に、その口を塞ぐ。


(苦しい)


まだ、呼吸はできない。



「っ!?」


何が起こったのか把握させる暇も与えず
来た道をまた全力で走る。


走る走る走る。
ひたすら、走る。


奴の家から自分が見えなくなるまでひたすら走って。



思い切り空気を吸い込む。




苦しいなんてものじゃない。
体が燃えているみたいだ。
心臓が爆発して死ぬんじゃないだろうか。


(むしろ、このまま死なせてくれ……)


顔の汗を拭う掌から、甘い匂いがした。

溶けたチョコレート。



あぁ、恥ずかしさに死にそうだ。




頭はずっと、冷静なのだ。

2009.02.14
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