どうか、この手を



 激情



自分の気持ちが、
一体何ものなのか、
どこから生まれるのか、
何のためにあるのか、

全部わからなかった。


わからないことが苦しくて
だから、それが知りたくて


無意識にオレは、自分の両手で三橋の両手を取った。
掌から、指の先から、何か一つでも伝わることを願って。
伝わってくることを願って。
強く、強く、握る。


「痛い、よ、阿部君……」
「ああ……」
「阿部、君……?」
「じゃあ、お前も握れよ」
「え?」
「お前も、同じようにすれば良い」
「あべ、く……」
「そしたら、オレも、痛いから……おあいこだろ?」


オレの要求も空しく、三橋は首を振った。
目を見開いて、じっとオレを見ていた。

口は何か言いたげに、半開きに震えたけれど、
わずかに空気が洩れただけで
オレが期待した言葉は出てこなかった。

何を期待しているのかすらわかっていないのに、
一体何を望めるというのだろう?

自分の行動があまりにも滑稽で、
大笑いしたくなった。


「やれよ」
「……でき、ない」
「だったら振り解けよ、嫌なら、そう言ってくれよ……!」
「いや、じゃない、よ!」
「じゃあ何でっ……」
「だって……!」
「……だって、何だよ!」


なあ、三橋。
この手を、
どうしようもないオレの想いを、
振り解いて。


「だって、阿部君は、もう、痛いじゃないかっ……」


ああ、だから、やめてくれ。
諸悪の根源は、お前の、そういうところ。

激しい動悸で、心臓が破れそうだ。

目から、滝のように涙が溢れた。
ぼろぼろ、ぼろぼろと。

泣いているのは、どっちだ?


「だから、このまま、で良い……」
「……っ」
「おあいこ、だ」


泣いている三橋は、締りのないムカつく顔で微笑んだ。
きっと、オレも、同じ顔をしているに違いない。

なあ、三橋。
この手を、
どうしようもないオレの想いを、

どうか、振り解かないで。


2015.6.26
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