痛い。

痛くて、膝をついた。
痛くて、息ができなかった。

あぁ、痛くて、死んでしまいそうだ。




 一心同体


それは、彼の姿が眼に入った瞬間だった。

急激にのしかかる痛み。押し寄せる感情。



どしゃ、と崩れ落ちる音で、
自分の心臓が潰れたのだと思った。



「…………っ」



何が起きたのかわからなかった。
現状を理解できないほどの痛みが、体中を襲って。
何が起きたのだろう。
心が、灼けるほど、悲鳴を上げていた。



「平助っ!!」


轟音のような名が耳に飛び込んできたけれど、
それは、ひどく遠くに感じた。

平助。と
自分もその名を呟いてみたら
ようやく現実に引き戻された。




「……へい、すけ……」


膝が震えて、これ以上前に進めなかった。

ほんの目の前には、
崩れ落ちた体が転がっている。

あぁ、あの音は、彼が倒れた音。
自分はそれを見ていたじゃないか。



「へい……っ」



名を呼ぶと、体中に痛みが走る。

戦って傷は負ったけれど、かすり傷程度だったはず。
彼の姿を凝視している間に、やられたのだろうか。そう思うと笑えてくる。

どうして、こんなに、痛いのだろうか。
痛みのせいで、動けない。今にも、蹲ってしまいたくて。

早く、傍に行かなければ、と思ったのに。





「へいすけ……」



痛くて、膝を折った。
手を地について、俯いた。

立っていられない。




あぁ、これは、彼の痛みなのだ。
たった今、彼が負った傷なのだと悟った。



俺たちはいつも一緒だった。
なんでも分かり合えていた。
それが、当然だと思っていた。


幸せも、痛みも、同じように。

これは、彼の負った痛みなのだ。





「しん、……」


耳元に感じたのは、彼のか細い声。

思わず顔を上げたけれど、未だ彼は横たわっていて。



「へいすけ……っ」


彼の痛みなら、俺がすべて受けようと思った。
それで、彼が楽になるなら、いくらでも死んでやろうと思った。


こんなに、こんなに痛くて。
俺がこんなに痛くて。

それでも、彼はまだ動かない。起きようとしない。
どれだけ痛みを負えば、足りるのだろう。


心の悲鳴は、これだ。
彼の苦しみに、俺が耐えられなくてどうするんだよ。




「い、たい……」



痛みに、もう立ち上がれないと思った。
呼吸は、いらないと思った。

死にたかったのは、俺だ。





「……ごめん、ね……」


風に乗って、彼の声が届いた気がする。


あぁ、そうか。
これは懺悔なのだ。

もう、彼はいない。
彼は、俺に生を押しつけて死んだのだ。

なんて、残酷な。



「…………っ」


その時から、

平助が楽になるなら良いや、と
すべてを放棄してしまったような気がする。


得たものは、彼の死と俺の生。



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