コイツは俺が好きで
俺はコイツが好きで

それは、とても素晴らしいことだけれど。


 蛙違い 


とくに特別な感情とか
特別な関係だとか

わかりやすく言えば
一般に恋人同士とか言うものになろうなどとは
少しも考えてはいなかった。

たぶん、お互いに。


「はあ……」
「何やねん」
「いや、溜息も出るだろ、この状況」
「まあ……、否定はせんけど」
「しろよ、気持ち悪ぃ!」
「なっ……それ自分かて一緒やで!」
「うっ……」


つい30分ほど前、俺たちは何故だか愛の告白をしていた。

きっかけはよく覚えていないが、
たぶん売り言葉に買い言葉、比べ合いの競い合いで
俺のほうが好きだとか俺の方が前から好きだったとか
その程度のもので
愛の告白と言ったところで、そんな仰々しいものではない。


「ほんと勘弁してくれよ、ホモのショタコンとか」
「お前ほんま締めたろか」
「ほんとのことだろーが」
「子供かて手加減せんからな」
「好きって言ったのに?」
「それとこれとは関係ないわぼけっ!」


ただの好き以上の好きを持つのは
恋愛感情以外でも起こりうるのだろうか。

友達。男同士。趣味(推理)が合う。ライバル。
秘密の共有。
共有した時間の長さ。

つまり情か?
お互いコアな部分での共有項が、偶然にも他の人より多かっただけで
これはただの偶然?必然?
必要性は?


「結局、怪我の功名だよな」
「そんなことない」
「俺が子供の姿になったから、こんなに関わるはめになったんだろ」
「それは単なるきっかけや」
「きっかけがあったからだろ」
「そんなん関係ない」
「関係あるだろ」
「なーいー」
「だったら、」


またお互いに引かない押し問答が始まって
いったい本来話そうとした内容はどこへ消えてしまったのかと
進まない議論に舌打ちする。

服部と議論できるのは、推理だけなんだと再確認した。
はっきり言って、それ以外はまるで合わない。
毎度毎度、嫌になる。

嫌になる?何が?


「俺はな」


妙に神妙な顔。
どうせつまらないギャグでも始まるのだろう。

俺はまた溜息をついて、あさってのほうを見る。

一向に進まない議論。
それは何故なのか。
それは、進むべき道が、辿り着く答えがないからだ。



「俺はな、工藤やったら蛙でも牛でも何でもええねん」

あれ、新しい。
いや、そうじゃなくて、どういう意味だ?

不覚にも一瞬考えが遅れて、俺の言葉はコイツに被せられた。


「工藤が何モンでも、俺はこうやって工藤と一緒におるんやって、そう思う」



なるほど。
なるほど。

てえと何だ? お前は俺の脳みそさえあれば良いってことか。
俺の脳みそは殊勝だからな。

だから俺たちは進展しないのだ。
今いる場所も、進む道も、辿り着く答えも、全部ここでしかなかった。
ここで、今ここで、全部完結していたんだ。

難解で簡単すぎる、つまらない謎が解けて、
俺は吹き出した。

すっきり爽快。


「笑うとこちゃうやろ自分」
「わりーわりー、いや、その通りだよ」
「気分悪いわ、一世一代の告白やったのに」


蛙とか牛と楽しそうに喋ってるお前は相当寒いけれど
何とも微笑ましいではないか。

ほんと、笑うしか。


「蛙ね」
「文句あるんか」
「ばっかみてえ」
「泣くほど笑うって、どないやねん!!」
「だから悪いって」
「もうええわ!」


涙が出るほど自分は笑ったようで、
その姿に完全に機嫌を損ねてしまったらしく、服部はそっぽ向いてしまった。

その陰で俺は、服の袖で目をこする。
息が苦しかった。


「っ……」


あれ?


拭っても、涙が溢れてきた。
ああ、これって。



(服部、俺は。お前が蛙だったら、嫌だよ)


ごめん、服部。
俺のほうが、少しだけ、深い。



2014.10.25
inserted by FC2 system