一人ぼっちの季節がやってきた。


 可哀相な僕



俺はゲームが欲しいだとか
僕はラジコン飛行機だとか
私は可愛い靴だとか
わいわい賑わう会話の渦から弾き飛ばされた。

遠巻きにみんなの姿を眺めると、まるで狂ったようにはしゃいでいる。
これはキリスト様主催のミュージカルなのだろうと確信した。
バカ騒ぎが小さな町に溢れて、僕の居場所はそっと離れた暗い木の陰へ。

しんしんと降る雪に、僕の足跡は消されてしまった。
こうして僕の存在までも消え去られるカウントダウンが始まる。




「なんか用かよ」
「別に」


僕の消えた足跡を追うように
そいつは僕のほうへ近づいてきた。
暗い木の陰に、更にそいつの影が重なる。


「サンタに手紙でも書いてろよ」
「書いたよ」
「なんて」
「内緒」
「つまんない奴」


ケニーはふふ、と笑って、カイルなら分かるだろ、と言った。

ああ金か、と悟って夢のない奴と言おうとしてやっぱりやめた。
その通り、夢じゃなくて現実に願っているのだろうと思うと白けた。


「どうしてこんなところにいるの?」
「僕は祝えないんだよ、ユダヤだから」
「知ってるよ」
「嫌味かよ」


え、と不思議そうに首を傾げる。
白々しいと思ってそう言おうとしたけれど
ムキになっていると思われたくなかったからやめた。

なんか、我慢してばっかりだ。
くそ、面白くない。


「祝えないの分かってて、一人になるの分かってて、なんで出てくるの?」


さらっと言われて殴り倒したくなった。


「そんなこと言いに来たのかよ」


痛いところを突かれたと思う。
みんなの中に入れないなら、家でゲームでもしていれば良い。
暖かい部屋にお菓子とジュース。
家には家族がいる。一人にはならない。

きっと寒くもなくて淋しくもならないだろう。


「なんでかなって思ったから」


別に良いけどね、と自分は言うだけ言ってはぐらかした。
それが異様にムカつく。


「ケニーはこっち側じゃないんだから、あっち行けよ」
「でも半分はカイルと一緒だよ」
「なんだよ半分って」
「僕も、祝えないから」


その声は言葉とは裏腹に明るくて、おちょくっているのかもしくは同情しているのだと思った。

人間って、自分の幸せとか地位とか財産とか、
それを持っていない人に、ひけらかして見せつけて憐れまないと確認できないんだ。
恵まれた自分の姿を見てもらわないと、それが信じられない。
それって、もの凄く可哀相だと思う。そして傲慢で下品だ。

でも自分も大して変わらないと思った。
のけ者にされて一人ぼっちで可哀相な自分を誰かに見てもらわないと
それこそ、本当に僕が消えてしまうんじゃないかって思った。

だから出てきた。
可哀相な僕を演じていないと、僕が可哀相でならなかった。



「僕んち貧乏だから」
「ケニーん家はクリスマスしないの?」
「チキンもケーキもプレゼントもないのに?」
「クリスマスって、キリスト様の誕生を祝うんでしょう。そんな物欲的なことじゃなくて、もっと精神的な」
「それで救われるなら、貧乏なんていないんだよカイル」


なんだか真面目に言っているのか冗談なのか分からないほどリアルな話だ。
でもケニーの目は笑っている。
今日は雪が降っているね、みたいな何気ない会話のトーンとまるで変わらないから
どっちなのか余計にわからなかった。


「じゃあ、なんでここにいるんだよ」
「サンタ宛の手紙出しに来た」
「つまんない奴」
「嘘」
「は?」
「僕はそういうのあんまり気にしないからよくわからないけど」
「何の話だよ」
「カイルのことはずっと見てるからなんとなくわかるんだ」


どこまでが本当でどこまでが嘘なのか、
どこまでが正しくてどこまでが勘違いなのか、
ケニーはいつもこうだ。

やっぱり何度も死ぬと神がかってくるのか、常人を超越できるのかと
そんなことないとわかりつつ変に納得した自分がいた。


「ストーカーかよ気色悪い」
「カイルって強情」
「何しに来たんだよ」
「別に、もう帰ろうかな、寒いし」


来た道を見たら、足跡が雪で完全に消えていた。
気づいたら、木の陰からはみ出ていたケニーの背中に雪が積もっていた。
寒そうなケニーに気づいたついでに気づいたことがもう一つ。



「ケニー」


ケニーは真っ白な雪の地面に足跡をつけた。


「僕ん家来れば」


ケニーは僕のことしか考えていないってこと。


2007.12.16
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