いつだっただろう。
この沈黙が、重く、苦痛なものに変わったのは。



 剣が峰



穴が開くくらい、オレのことを見ているのは、
その殺気と、この重苦しい沈黙で気づいていた。


「三橋」
「う、ん?」
「みはし……」
「…………」


名を呼ばれたから、ようやく振り向くと、
そこには苦しそうな顔をした阿部君がいた。

これも、わかっていた、こと。


「阿部君」
「好きだ」
「阿部君……」
「好きだよ、三橋」
「……っ」
「好きなんだ……」


いつからだったろう。
沈黙に耐え兼ねて発する言葉が、それだけになってしまったのは。

名前を呼んで、好きだと言って、
それ以外の言葉が見つからなくなったのは。

それは、喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか、その判断さえ曖昧だ。
ただ、どうすべきなのか考えてしまっている時点で、すでに知れているとも言える。


「阿部君」
「三橋」
「ごめん、ね」
「みは、」
「ごめん」
「……っ」
「オレたち、苦しいばっかり、だ」
「オレはそれでも……」


どうしてだろう。
何も話さなくたって、その沈黙は心地良いものだったのに。

なぜ。
どうして。

いつから、こんな、


「好きだ、阿部君」
「三橋……」
「でも、それだけじゃ、ダメ、みたい」
「……っ」


きっと、それに気づいてしまったからだ。


(なら、何が、足りない?)

(わからない)


ああ、
それが、こんなにも怖いことだなんて、思いもしなかった。


オレは、どんな場面でも怖くなかったよ。阿部君がいれば、何も。
九回裏、二死、三塁にサヨナラランナー、打者は四番。
さあ……

阿部君は、どんなサインをくれるのだろう。
そして、オレは、


2015.7.13
inserted by FC2 system