どうしてだろう。
どうしてだろう。

どうして、
傷つけてしまうのだろう。






 君だけは、だめだった。



誰かを見守ってあげたいと思ったのは
初めてのことだった。

純真で強かな彼を
支えてあげたいと思った。
正直で真っ直ぐな彼に相応しいところへ
導いてあげたいと思った。

心から、愛おしいと思った。



「なんで、ですか……」


その彼が苦しそうに嗚咽を堪え
呟いた。


「君には、君の相応しい場所がある」
「そん、な」
「そこに、俺はいられない。いちゃいけないんだよ」
「勝手に……決めつけないで下さい」
「うん、ごめんね」


俺が微笑むと、
彼は苦渋に満ちた顔を更に歪ませた。

俺も、少しくらい悲しい顔をしてあげれば良いのにね。

彼の瞳が光るたびに
心に棘が突き刺さるような感覚に襲われた。
心が痛ければ痛いほど
締めつけられるほどに止まらなくなる。

彼を堪らなく傷つけたくて。

もう二度と立ち上がれないほどに
陥れてやりたくなるんだ。

だって、彼は
彼は言うから。



「……いらない」
「え?」


ほら。

何度堕ちれば気が済むんだろう。
いい加減、気づいても良いと思う。

これは、君へのあてつけなんだよ。

俺がこんなこと平気でしているとでも思っているのかな。



「貴方がいない場所なんか、俺はいらない」
「……」
「俺の相応しい場所は、ここにしかないんです」


真っ直ぐな瞳から
堪えきれなかったものが
一筋だけ頬を伝って落ちた。


嘘だと言いたいわけじゃないんだ。
ただね、ずっとそうだってことが
どうしても信じられないだけなんだよ。

その想いが永遠だとは、到底信じられないんだ。

あるいは君にはできるかもしれない。
でも、それでも信じることはできない。
信じたくないんだ。


「だめ」
「……なん、で」
「俺に、君は必要ないんだ」
「っ」
「君は、いらない」


だって、そんなこと、
俺にはきっと無理だから。

誰かを強かに想うことも
誰かを愛し続けることも
ましてやそれに縋ることも。

たとえあったとしても、 それは一時のものでしかないと思う。
俺たちには、それよりも優先しなければならないものがあるのだから。
そのために、ここにいるわけで。

そんな想いを持つために、ここにいるんじゃないんだよ。

だから、信じない。
それが誰であろうと、君であろうとも
受け入れることはできないんだ。


「貴方といたいんです……」
「君と俺とじゃ、違いすぎる」
「貴方をひとりにしたくない」
「俺には、黒鋼がいるよ」
「俺が嫌いですか」
「小狼くん」
「どうして、黒鋼さんなら良いんですか……っ」


いつか
変わること。朽ちること。そして終わることだから。

俺は、君を愛せるほど綺麗じゃないんだ。



「俺が、君じゃなくて、彼を愛しているからだよ」


だから、
もうこんなことを、言わせないで。

傷つけさせないで。


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