絶望を知っても、その先にある至福を望むことができるだろうか。


 困難な選択


別に、腹が立ったわけじゃない。悲しかったわけでもない。
そんなありふれていて、些末な感情なんかじゃなかった。

そう、コイツはこういう奴だったじゃないか。


「そうだな」


どんな顔をしても嘘っぽい気がしたから
その判断はコイツに任せようと思った。


「なんて言うか……」
「うん」
「絶妙な表情をするね」
「だろ」
「つまり、そういうことなんだ」
「そう」


平助は困ったような、でも安心したような顔をしていた。
俺がいつもみたいに嘘でも笑っていたら、その顔はきっと曇っていた気がする。
そう思うと少しだけ胸が苦しくなった。

もう、そんな駆け引きはいらないんだと、何度も何度も思う。

今はもう、あの時代じゃない。
俺たちは生まれ変わって、また出会って、また、……

何度も思うたびに、俺は苦しくなった。


「好きだよ」
「いつから」
「ずーっと昔から」
「世界って狭いのな」
「俺は嬉しいよ、また新八っつぁんに会えて」


不思議だと思う。

生まれ変わる前の自分の記憶が、こうも鮮明にあって。
でも、昔の俺と今の俺とは違うわけで、でも、同じで。


遠い記憶の中で
平助と初めて会って、バカみたいに仲良くなって、バカみたいに好きになって、
色んなことがあって、もうバカなことはできなくなって、平助がいなくなって、
俺の目の前で死んでしまって、でも俺は生きていて、
何年も何十年も、平助の4倍くらい生きて生き続けて。

確かに、悲しい記憶ではあった。でも、幸せでもあった。



「お前、忘れてたじゃん」
「だって……!」
「生まれ変われるって知ってりゃ、あんなに生きなかったのにな」
「新八っつぁんがしぶといから、なかなか生まれ変われなくて、堪んなかったよ」
「早く言えよ」
「死んでるんだもん、言えないよ」
「知るかよ」


輪廻転生。

平助によれば、生きていたときの想いが強ければ強いほど
その確立は高くなるらしい。

俺はたくさん生きたから、きっと、その分何倍も後悔や未練を残しただろう。

当時は、生きることでいっぱいいっぱいだったから、それほどでもなかったと思う。
でもこうして、後から客観的に見ると、苦しかったんだろうなって。

あの時の俺は今の俺だから、それがわかるんだ。


新しい時代に生まれて、不鮮明ながらも何度も夢を見た。
その夢は段々と鮮明になって、
幸せだったことも苦しかったことも、あの頃の感情を、すべて再現していた。

だから、平助に初めて会ったときは、見つけた、と思った。
鳥肌が立って、息が止まって。



「また、生まれ変われるかな」
「それって未練を残せってこと?」
「すっごく好きになれば良いんだよ」
「今と昔じゃ、時代が違いすぎる」
「苦しい思いもしろってこと?」
「そんな簡単なもんでもないと思うけど」
「その時代で違うもんね。何を思うかなんて」


満面の笑顔でそう言われると
コイツはわかっているのかいないのか、わからなくなる。

どっちにしろ、また生まれ変わるつもりなんだろう。
それほど愛されていると思えば、まあ悪くもないだろう。


それに、
あの頃、俺がどんな思いで生き抜いたのかを平助が知らないように、
平助がどんな思いで死んだのかなんて俺にはわからないから、きっとおあいこなんだ。

何度生まれ変わろうとも、それだけは、わからないままだ。


お前が死んだとき俺が見たものは、俺にしかわからない。



「お前は何を見た?」
「え?」
「俺は、世界の終わりを見たんだよ」



それでも、平助は、そう言えるんだろう。
生まれ変わりたいと。俺とまた会いたいのだと。

俺には、きっと言えない。


でも結局、こうして、また生まれ変わるのだろう。




2008.08.11
inserted by FC2 system