ネガティブ思考1(平助SIDE)



胸に溜め込んだ想い。
溢れ出しそうなのを必死で堪えているのは、
たとえ綺麗さっぱり吐き出したとしても、楽になることはないからだ。


「お前だってそうだよ」
「そうかなあ、何か、すごくへこむ」
「例えば、お前がもともと俺のものだったら」
「うん」
「お前が賢くてよく気の回る人当たりが良い奴だったら」
「え、その通りじゃ」
「そしたら、俺はお前のこと好きにならなかったよ」


当たり前のことのように、さらりと新八っつぁんは言う。
でもそれは、俺にとって、ちょっとした衝撃的事実の発覚だった。
(新八っつぁんが、俺のことを、バカで気の利かないあくどい奴だって思っているってことではなく)


「それは、愛の告白?」
「泣いて喜べ」
「俺、新八っつぁんのものにならなっても良いのにな」
「だから、好きじゃなくなるって」
「なんか素直に喜べないんだけど」
「そんなもんだ」
「どんな俺も、俺だと思うけど」
「そうだな」
「俺は、どんな新八っつぁんだって好きだと思う」
「そうかもな」
「何が違うんだろう」


俺が俺であることは変わらない。新八っつぁんも新八っつぁんだ。
でもそれは媒体のことであって、内情とは別ものなのかもしれない。
でも、俺の考えることは俺なんだし、やっぱり同じなんじゃないのかな。

他者への認識だけが、きっとそれを許さない。違うんじゃなくて、分からない。


「俺のこと好き?」
「まあ、ね」
「なら良いや」


それだけで、心底幸福だった。


でも俺は変わってしまって、
俺であることには依然変わりはないのだけれど
それでも、変わったことは明らかで。

俺は俺なのに。新八っつぁんは新八っつぁんなのに。
俺は新八っつぁんが、好きなままなのに。

なのに、もう聞けない。
もう、言えない。

何度となく、それは挨拶代わりと言っても良いくらい発した言葉なのに。

ねえ、新八っつぁんは、今でも俺のこと
あのときと同じように好きなのかな。


2008.6.10
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