ネガティブ思考2(新八SIDE)



傷なんかたくさんあった。
心にも、体にも。
消え去ることはないのに、胸の奥底に押し込めて、なかったことにできる気がしていた。


笑った顔が好きだったけれど、笑えなんて言う気はない。
壊れてしまいそうな奴に、泣けば良いとも言えない。
話しかけようにも、そんな距離にはもういなかった。

アイツにとって、俺がちっぽけな存在だったなんて、そんな卑屈なことは思わない。
アイツは心底俺に惚れていたと思う。

ただ、失ったものが大き過ぎただけ。
なかったことになんかできるはずもなく、そうして得られるものの比ではなかった。
それだけだ。


「そんなに俺が欲しいか」
「うん、超欲しい。俺のものになってくれる?」
「発情期かよ、ガキが」
「こんなにも俺が愛情表現してるのにさ」
「お前は表現しないと愛せねえのかよ」
「そんなこと言ってると、寂しい大人になっちゃうよ、新八っつぁん」


いくら語ったところで、目に見えなければ感じ方もそれぞれで。
精神論みたいなことを信じて愛し合うのは、結局寂しいからなんじゃないのかなと思う。

いかに動機が純粋でも、実際は物理的にしか表せないなんて
人間て不純な生き物だと思う。


「そんなの幻想だ」
「試してみる?」
「たぶん、良いほうには転ばない」
「関係が? それとも気持ちが?」
「ままならないもんなんだよ」
「俺は、違うと思う」


俺も、そう思うよ。そう、思いたいよ。


「俺は、そんな消極的な気持ちで新八っつぁんを好きなわけじゃないよ」
「そんなの、どうとでも言える」
「そうだよ。だから、どうとでもできるんだよ」


俺だって、できるものなら自分のものにして、
一生どこにも行けないようにしてやりたい。
でも、そんなことしないといけない理由はなんだろう。
どうして焦っているのだろう。

自由な平助が好きだ。
見ているだけで、幸福になれたんだ。
誰にも縛られず、思った通りに行動して、失敗して、笑って、泣いて、怒って、
そして、俺に……

違うだろうか?

他者との認識だけが、いつまでも交わらなく隔たっている。
それだけが、ずっと、分からないままなんだ。

だから、きっと身近で手軽な方法でしか愛せなくなるんだろう。


「俺のこと好き?」
「まあ、ね」
「なら良いや」


その時の平助は、心底幸福そうだった。


あったものがなくなる。
形あるものには、仕方のない道理だ。

少なからず、心は、その影響を受けてしまう。
ただ、それがどうしたと言うのだ、と思う。

俺は俺、平助は平助じゃないか。それ以上もそれ以下もない。


誰が死のうが生きようが、俺が平助を好きなことに関係なんかない。


(俺は、平助が、)


なのに
叫びたいほど思っているのに、
きっと、もう言えない。

平助は、今でも俺のことを好きだろう。
それはこの先も、ずっと。

でもきっと、あのときと同じ好き、じゃないだけ。


2009.12.7
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