「生まれ変わったら、何になりたい?」


 夢物語




そう言う顔を見れば、楽しげで。

瞬間、コイツの言いたいことが全部分かってしまった。



「死んだ後のことなんか、分かるかよ」


さらっとそう答えたら、
ええーと必要以上に大きな不満の声。

そして、例えばの話なんだからさーとか、
夢がないなーとかぶつくさ言っている。


たぶん、聞いて欲しいんだと思ったから、
すぐには聞いてやらなかった。

こうして、いじけて気づいてくれるのを待っているのはずるいと思うけれど
嫌いじゃないとも思う。

だから、バカみたいに可愛く拗ねた横顔に
ようやく聞いてやるんだ。



「平助は何になりたいの」


待っていました、と満面の笑顔。
ほんと、分かりやすい奴。

そんなに聞きたい?なんて焦らしたら殴ってやろうと思った。



「俺は、ー……」


へへ、と口の端で笑って口を開いた次の瞬間
はっとする顔。

自分の考えのバカさ加減に気づいたのだろうか。

口に出す前に気づいたなら上出来じゃないか。
お前の言うことなんか、初めからお見通しなんだよ。

このまま笑って誤魔化せば良い。
こんな話、初めからなかったんだ。


気づくな、と俺は呟いた。






沈黙に、風の音を聞いた。
顔が見れなかった。



「……新八っつぁんは、いるのかな」


バカなくせに、とことんバカにはなれないらしい。

几帳面で真面目なこと。




「だから、分かるかよって」


そうだよねって、今度はしおらしく笑って。

もっと考えろよって思うときは、ちっとも考えないくせに
考えんなって、俺が切に思っても、お前は考える。

ほんと、損な奴だと思う。

ほんと、バカな奴。



「俺ね、生まれ変わったら、また自分になろうと思ってた」
「そう」
「何でって聞いてよ」
「やだよ」
「良いよ、言うから」
「聞かねえよ」



また、新八っつぁんを好きになりたいなって。




「わ、何耳塞いでんの!」
「聞かねえって言ったろ」
「普通聞くでしょ」
「うるさいな、俺はそんな夢話嫌いなの」
「現実主義者」
「分かってんじゃん」
「じゃあ、現実だったらどうする?」
「お前、何にも分かってねえのな」



良かった。
最後には笑った。

でも、ふっきれたような顔が気になった。
次の言葉が予測できない。



把握しきれていないコイツの言葉や表情は
俺にとっては恐怖でしかない。

まだ、怖い。




「新八っつぁんも、新八っつぁんでいてよ」


そうすれば、またこうして笑えるよ、と。




率直な言葉を、どうかわせるだろう。
俺は、かわせるのだろうか。





果たして、生まれ変わったコイツの世界に
俺はいるのだろうか。

それを望むだろうか、俺、は。


「また一から出直しかよ」
「良いじゃん、楽しいと思うよ」
「嫌に決まってんだろ」
「ええ、何で!」
「またお前の面倒見るなんて、御免なの」
「良いよ、絶対新八っつぁんより先に生まれてやるから!」
「やめとけって、余計惨めになる」
「何で?」
「年下に面倒見られたいの、お前」
「見られないよ!」
「俺は、俺だけには絶対に生まれ変わらない」
「新八っつぁんのバカ!」



生まれ変わってまで、

お前に愛されるのも、
お前を愛するのも、
もう御免だ。

今、これきりで、充分だ。


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